新卒エンジニアを目指す段階で、『リーダブルコード』や『良いコード/悪いコードで学ぶ設計入門』を読み、さらにテストについて学ぶのは非常に良い方向性です。読みやすさ、変更しやすさ、責務の分離、テスト可能性といった考え方を早い時期から身につけておくと、単に「動くコード」を書くだけの段階から一歩進みやすくなります。
ただし、この2冊を理解してテスト手法を学べば、新卒エンジニアとして必要な能力がすべて揃うわけではありません。実務では、コードを書く力以外にも、既存コードを読む、バグを調査する、Gitで共同開発する、データベースやHTTPを理解する、仕様を確認する、レビューを受けて修正するといった能力が必要になります。
逆に言えば、新卒の時点で高度な設計やテストを「極める」必要もありません。基礎的なプログラミング能力を持ち、自分で小さなアプリケーションを完成させ、他人が読めるコードを書こうとし、分からないことを調査して改善できる状態まで到達していれば、十分に良いスタート地点になります。
- 『リーダブルコード』を学ぶ価値は大きい
- 『良いコード/悪いコードで学ぶ設計入門』からは変更しやすさを学べる
- テストを学ぶのも非常に有効だが「極める」必要はない
- 新卒で重要なのは「設計本を何冊読んだか」より実際に作った経験
- GitとGitHubは新卒前に触っておきたい
- デバッグ力は設計知識と同じくらい重要
- Web系を目指すならHTTP・DB・SQLの基礎も押さえたい
- フレームワークだけでなく言語そのものの基礎も重要
- アルゴリズムとデータ構造はどこまで必要?
- 「良いコード」は状況によって変わる
- コードレビューを受ける経験も非常に役立つ
- 新卒ではコミュニケーション能力も技術力の一部
- ポートフォリオなら「高度さ」より完成度を見る
- 新卒までに目指したい実践的なチェックポイント
- おすすめの学習順序
- 「テストを極めてから就職」より実務で学び続けられる状態を目指す
- まとめ:2冊+テストは良い土台。ただし「作る・読む・直す」経験まで揃えると強い
『リーダブルコード』を学ぶ価値は大きい
『リーダブルコード』で扱われる考え方の多くは、特定の言語やフレームワークだけに依存しません。変数名を分かりやすくする、関数を理解しやすい大きさにする、複雑な条件式を整理する、コメントに何を書くべきか考えるといった内容は、ほぼすべての開発現場で役立ちます。
たとえば、次のような名前でもプログラム自体は動きます。
int d = 7;
しかし、これが「アカウント削除までの猶予日数」であれば、daysUntilAccountDeletionのような名前のほうが意味を理解しやすくなります。数か月後に自分が読み返した場合や、別の開発者が修正するときには、この差が大きくなります。
実務では新規コードを書く時間だけでなく、既存コードを読んで修正する時間も非常に多くなります。そのため、読みやすいコードを書く習慣は新卒の段階から身につける価値があります。
『良いコード/悪いコードで学ぶ設計入門』からは変更しやすさを学べる
読みやすいコードを書けるようになった次の段階として重要になるのが、変更しやすい構造を考えることです。『良いコード/悪いコードで学ぶ設計入門』では、責務を適切に分けることや、状態・ロジックを整理することなど、保守しやすいコードを考えるための題材を学べます。
たとえば、注文金額の計算、割引判定、在庫更新、メール送信、データベース保存をすべて1つの巨大な関数へ書けば、最初は早く完成するかもしれません。しかし、「割引方式だけ変更したい」「メール送信だけテストしたい」となったときに修正しづらくなります。
そこで役割ごとに処理を整理すると、変更の影響範囲を小さくできます。こうした感覚は、実際のコードを何度も修正することで少しずつ身につきます。
ただし、本に書かれている設計パターンをすべて適用すれば良いコードになるわけではありません。小さなプログラムを必要以上にクラス分割したり、将来使うか分からない抽象化を大量に追加したりすると、逆に読みにくくなることがあります。設計の目的は「高度に見えるコードを書くこと」ではなく、現在必要な変更を安全に行いやすくすることです。
テストを学ぶのも非常に有効だが「極める」必要はない
新卒前にテストコードを書いた経験があることは大きな強みになります。少なくとも、正常系、異常系、境界値といった考え方を理解し、簡単な単体テストを書けるようになっておくと実務へ入りやすくなります。
たとえば「20歳以上なら登録できる」という処理であれば、30歳だけをテストするのではなく、19歳、20歳、21歳を試すことが重要です。境界となる20歳付近を確認することで、「20より大きい」と「20以上」を間違えていないか発見できます。
また、単にテストコードの書き方を覚えるだけでなく、何をテストすべきかを考える力が重要です。入力が空の場合、APIが失敗した場合、同じデータが二重送信された場合など、実際に壊れそうなケースを想像する力は実務でも役立ちます。
一方、新卒になる前からモック戦略、契約テスト、プロパティベーステスト、負荷試験、E2E基盤などあらゆるテスト技法を極める必要はありません。まずは自分のアプリケーションで単体テストと簡単な結合テストを書き、「変更しても壊れていないことを確認できる」という感覚を身につけるほうが実践的です。
新卒で重要なのは「設計本を何冊読んだか」より実際に作った経験
プログラミング書籍は非常に役立ちますが、読むだけではコードを書く能力は定着しにくいものです。設計について理解したつもりでも、自分でアプリケーションを作ると「どこでクラスを分けるべきか」「この関数は長すぎるのか」「どこまでテストするのか」と迷う場面が大量に出てきます。
そこで、本を1冊読み終えるたびに小さな作品へ内容を適用すると効果的です。たとえば最初に簡単なTODOアプリを作り、その後に『リーダブルコード』を参考に名前や関数を整理し、さらにテストを追加してみます。
次に機能を増やして、「期限」「タグ」「ユーザー登録」「検索」などを追加します。機能追加によって既存コードが修正しづらくなった場所があれば、そこで初めて設計の必要性を実感できます。
「本を読んだ → 作る → 困る → 本の内容を使って直す」という往復のほうが、読書だけを何冊も続けるより実力につながりやすいでしょう。
GitとGitHubは新卒前に触っておきたい
実務ではソースコードを一人だけで管理するケースは少なく、Gitを使った共同開発が一般的です。そのため、設計やテストだけでなくGitの基本操作も身につけておくと安心です。
最低限、clone、add、commit、push、pull、ブランチ作成、マージといった基本操作を使えるようにします。また、GitHubなどでPull Requestを作る流れも一度経験しておくと、入社後の開発フローを理解しやすくなります。
さらに重要なのは、コマンドを暗記することではありません。「変更履歴を小さな単位で残す」「何を変更したのか分かるコミットメッセージを書く」「他人の変更と衝突したときに慌てず確認する」といった使い方です。
個人開発でも、完成したファイルだけをGitHubへ一括アップロードするのではなく、機能を少しずつ作りながらコミットしていくと良い練習になります。
デバッグ力は設計知識と同じくらい重要
新人エンジニアの仕事では、ゼロからきれいなコードを書くより、「なぜ既存機能が動かないのか」を調べる場面も多くあります。そのため、デバッグ能力は非常に重要です。
エラーが出たときに、すぐコード全体を書き換えるのではなく、エラーメッセージを読む、ログを確認する、入力値を確認する、問題が起きる最小条件を探す、といった手順を取れることが大切です。
たとえばAPIからデータが取得できない場合、「APIがおかしい」と決めつけるのではなく、リクエストURL、HTTPステータスコード、送信パラメータ、レスポンス本文、認証情報などを一つずつ確認します。
このような問題を小さく切り分ける能力は、プログラミング言語が変わっても役立ちます。新卒時点では、すべての問題を知識だけで即答できることより、分からない問題を順序立てて調査できるほうが実践的です。
Web系を目指すならHTTP・DB・SQLの基礎も押さえたい
Webエンジニアを目指す場合、コード品質だけでなくWebの基本構造も理解しておきたいところです。特にHTTP、データベース、SQLは、多くのWebサービスで繰り返し登場します。
HTTPについては、GETとPOSTの違い、ステータスコード、リクエストとレスポンス、Cookie、セッション、認証などの基本を説明できる程度から始めれば十分です。
データベースでは、テーブル、主キー、外部キー、インデックス、トランザクションなどの基礎を学び、SQLでSELECT、INSERT、UPDATE、DELETE、JOINを使えるようにすると実用的です。
たとえばTODOアプリでも「ユーザー」「タスク」「タグ」という3つのテーブルを設計してみると、単純なアルゴリズム問題だけでは学びにくいデータ設計の感覚が身につきます。
フレームワークだけでなく言語そのものの基礎も重要
React、Spring Boot、Rails、Laravelなどのフレームワークを使えば、比較的早くアプリケーションを作れます。しかし、新卒のうちはフレームワークの使い方だけでなく、その下にある言語の基礎も重要です。
変数、関数、スコープ、例外処理、コレクション、オブジェクト指向、非同期処理など、自分が使う言語の基本的な仕組みを理解しておくと、フレームワークで問題が起きたときにも原因を追いやすくなります。
たとえばJavaScriptでReactを使うなら、配列操作、オブジェクト、クロージャ、Promise、async/awaitなどを理解しているほうが、React特有のコードも理解しやすくなります。
フレームワークのテンプレートをコピーして動かせることより、「なぜこのコードで動いているのか」を少しずつ説明できる状態を目指すほうが長期的には強くなります。
アルゴリズムとデータ構造はどこまで必要?
新卒採用では企業によってコーディングテストが行われることがあります。そのため、配列、リスト、スタック、キュー、ハッシュテーブル、木構造といった基本的なデータ構造や、探索・ソートなどの考え方を学んでおく価値があります。
ただし、すべてのアルゴリズムを競技プログラミング上級者レベルまで極める必要があるわけではありません。少なくとも「この処理はデータ量が増えたら遅くなりそうか」と考えられる程度の計算量の感覚があると役立ちます。
たとえば1万件のデータを探すたびに最初から順番に走査している処理と、キーから高速に検索できるデータ構造を使う処理では、データ量が増えたときに差が出ます。こうした基本を理解しておけば、設計の判断にもつながります。
「良いコード」は状況によって変わる
設計本を読むと、正しい設計と間違った設計が明確に存在するように感じることがあります。しかし、実務では「良いコード」は状況によって変わります。
たとえば数時間だけ使うデータ変換スクリプトと、10年間保守する決済システムでは、必要な設計レベルが違います。前者へ大量の抽象化レイヤーを追加すると、開発時間だけ増えてしまうかもしれません。
反対に、複数チームが長期間触る重要なシステムで巨大な関数やハードコードを大量に残せば、将来の変更コストが増加します。
したがって設計を学ぶときは、「このパターンを使えば正解」と覚えるのではなく、何を変更しやすくしたいのか、どの程度の複雑さなら許容できるのかを考える習慣をつけることが重要です。
コードレビューを受ける経験も非常に役立つ
自分だけでコードを書いていると、自分の癖や分かりにくい部分に気づきにくいものです。可能であれば、学校、インターン、友人、オンラインコミュニティなどで他人にコードを読んでもらう経験をすると大きく成長できます。
レビューでは、「この変数名だと意味が分かりにくい」「この関数は2つの責務を持っている」「この条件ではエラーケースが漏れている」といった、自分では見つけられなかった問題を指摘してもらえます。
そして実務では、指摘を受けること自体が普通です。レビューで修正を求められたことを「自分のコードを否定された」と捉えるのではなく、品質を上げる共同作業として扱えることも大切なスキルです。
新卒ではコミュニケーション能力も技術力の一部
エンジニアは一日中一人でコードだけを書いている仕事とは限りません。仕様が曖昧なら確認し、進捗を共有し、問題が起きたら相談する必要があります。
たとえば「ログイン機能を作ってください」と言われたとき、「Googleログインも必要ですか」「パスワードを何回間違えたらロックしますか」「退会済みユーザーはログインできますか」と確認できることも開発能力の一部です。
仕様を勝手に想像して数日間作ったあと、前提が違って全部作り直すより、早い段階で質問したほうがチーム全体の生産性は高くなります。
新卒では分からないことがあるのは当然なので、「何が分からないのか」「ここまでは調べた」「自分はこう考えている」という形で質問できるようになると実務で非常に役立ちます。
ポートフォリオなら「高度さ」より完成度を見る
就職活動用に個人開発をする場合、AI、マイクロサービス、Kubernetesなど高度そうに見える技術を大量に入れることだけが評価につながるわけではありません。
むしろ小さめでも、READMEが整理されている、起動方法が分かる、エラー処理がある、テストがある、Gitの履歴が残っている、実際に動作する、といった完成度の高いプロジェクトのほうが、自分の考えを説明しやすくなります。
たとえばタスク管理アプリでも、ユーザー認証、CRUD、検索、データベース、バリデーション、テスト、デプロイまで自分で実装すれば、多くの基礎を経験できます。
面接では「なぜこの構造にしたのか」「途中で何に困ったのか」「今作り直すならどこを変えるか」と聞かれる可能性があります。そこを自分の言葉で説明できることが重要です。
新卒までに目指したい実践的なチェックポイント
書籍を何冊読んだかではなく、次のようなことを一通り経験できていれば、新卒としてかなり良い準備になります。
| 分野 | 目標の例 |
|---|---|
| プログラミング | 主要な文法を理解して自力で小さな機能を書ける |
| 可読性 | 変数名・関数名・処理の分割を意識できる |
| 設計 | 責務を分け、変更しづらい箇所を説明できる |
| テスト | 単体テストを書き、正常系・異常系・境界値を考えられる |
| Git | ブランチ・コミット・Push・Pull Requestの基本が分かる |
| デバッグ | ログやエラーから原因を切り分けられる |
| DB | 基本的なSQLとテーブル設計を経験している |
| Web基礎 | HTTP、API、認証などの基本を説明できる |
| 個人開発 | 小さくても1つ以上のアプリを最後まで完成させている |
| 説明力 | 実装理由や問題点を自分の言葉で説明できる |
すべてを高度なレベルで習得する必要はありません。重要なのは、一度実際に使った経験があり、分からない部分を調べながら前へ進めることです。
おすすめの学習順序
効率よく進めるなら、「設計とテストを先に完全習得してから開発を始める」のではなく、開発と並行して学ぶほうがおすすめです。
まず1つのプログラミング言語を使って小さなアプリを完成させます。その後『リーダブルコード』を読み、自分のコードをリファクタリングします。次に単体テストを追加し、変更しても動作を確認できる状態を作ります。
さらに機能を追加してコードが複雑になった段階で、『良いコード/悪いコードで学ぶ設計入門』の考え方を適用します。同時にGit、SQL、HTTP、デバッグなども必要になったタイミングで学んでいきます。
作る → 読む → 改善する → テストする → 機能追加する → また設計を見直すというサイクルを何度も回すことで、知識が実際の開発能力へ変わっていきます。
「テストを極めてから就職」より実務で学び続けられる状態を目指す
ソフトウェア開発には、単体テスト、結合テスト、E2Eテスト、性能試験、セキュリティテスト、可観測性、CI/CD、設計パターン、データベース、ネットワーク、クラウドなど非常に多くの分野があります。新卒になる前に全部を極めることは現実的ではありません。
企業側も通常、新卒に経験豊富なシニアエンジニアと同じ能力を求めているわけではありません。基礎力があり、フィードバックを受け入れ、必要なことを学習し続けられることのほうが重要です。
そのため、「まだテストを極めていないから就職できない」と考える必要はありません。テストの基本を理解して実際にコードを書いた経験があれば、その先は実務の中でも学べます。
まとめ:2冊+テストは良い土台。ただし「作る・読む・直す」経験まで揃えると強い
『リーダブルコード』と『良いコード/悪いコードで学ぶ設計入門』を理解し、さらにテストの基本を身につけることは、新卒エンジニアを目指すうえで非常に良い学習です。読みやすさ、変更しやすさ、テスト可能性を早い段階から意識できることは大きな強みになります。
ただし、新卒エンジニアとして「いい感じ」になるためには、設計本とテストだけでなく、実際にアプリを作る経験、Git、デバッグ、SQL・データベース、HTTPなどの基礎も合わせて身につけることが重要です。
特に大切なのは、本の内容を暗記することではありません。自分でコードを書き、機能追加で苦労し、読みづらい部分を直し、テストを書き、レビューや失敗から改善する経験です。
新卒段階で完璧な設計や高度なテスト技法まで極める必要はありません。「小さなアプリを自力で完成できる」「コードを読みやすくしようと考えられる」「基本的なテストを書ける」「問題を調査できる」「分からないことを適切に質問できる」という状態を目指せば、実務へ入るためのかなり良い土台になります。


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