医療分野でもAI(人工知能)の活用が進み、薬の情報検索、処方内容のチェック、記録作成などをAIが支援する場面が増えています。そこで気になるのが、将来的にAIと薬剤師では、どちらがより正確な仕事をできるのかという点です。
結論からいえば、AIと薬剤師を単純に比べて一方が常に正確とはいえません。AIは大量の情報を高速かつ一定のルールで処理することに強い一方、薬剤師は患者一人ひとりの状態や会話、生活背景まで考慮して判断できます。今後の医療では、どちらか一方に任せるというより、AIの計算・検索能力と薬剤師の専門的判断を組み合わせることが重要になると考えられます。
AIと薬剤師では「正確さ」の種類が違う
まず押さえておきたいのは、「正確な仕事」という言葉には複数の意味があることです。大量の薬剤情報から該当する情報を探す正確さ、決められた条件を漏れなく確認する正確さ、患者の状態を踏まえて適切に判断する正確さは同じものではありません。
例えば、何千件もの薬剤データについて一定の条件を照合する作業では、適切に設計・検証されたコンピューターシステムが人間を支援できる可能性があります。疲労によって集中力が低下することもなく、同じ処理を高速に繰り返せるためです。
一方、「この患者は薬をきちんと飲めているのか」「副作用らしい症状はないか」「処方医への確認が必要か」といった判断では、入力されたデータだけでは分からない情報が重要になります。ここには薬剤師の知識だけでなく、聞き取りや観察も関係します。
AIが薬剤師より得意になりやすい仕事
AIやコンピューターシステムと相性が良いのは、条件が明確で、大量の情報を比較・整理する仕事です。医薬品情報の検索支援、記録の整理、一定条件に基づく注意喚起などは、AIを活用しやすい領域です。
例えば複数の薬が処方されている場合、それぞれの医薬品名、用量、併用薬などの情報をデータベースと照合し、確認すべき項目を薬剤師へ提示する仕組みが考えられます。人間が一つずつ情報を検索するより短時間で候補を抽出できれば、薬剤師は重要な確認に時間を使えます。
また、AIは人間のように「今日は忙しいから見落とした」という疲労そのものはありません。そのため、定型的な確認作業をAIやシステムに補助させることは、ヒューマンエラーを減らすための一つの方法になり得ます。
AIにも間違いはあるため医療判断を丸投げできない
ただし、「AIなら間違えない」という理解は危険です。AIの回答は、使用するシステム、学習データ、参照情報、入力内容などによって変わります。特に生成AIは、もっともらしい文章で事実と異なる情報を出力する場合があります。
例えば患者が薬の名前を間違えて入力したり、服用している別の薬を入力し忘れたりすれば、AIがその不足情報を自動的に把握できるとは限りません。計算処理そのものが正確でも、入力情報が不完全なら結論も適切でない可能性があります。
そのため、一般向け生成AIから得た回答だけを根拠に、処方薬の服用量を変更したり中止したりするのは避ける必要があります。薬について具体的な判断が必要な場合は、医師や薬剤師などの医療専門職へ確認することが基本です。
薬剤師にしか拾いにくい「患者から得られる情報」がある
薬剤師の重要な役割の一つが、患者とのコミュニケーションから情報を得ることです。医療現場では、データベースに登録されている情報だけで判断できないケースがあります。
例えば患者が「薬は毎日飲んでいます」と答えていても、会話を続けるうちに「朝は忙しいので週に何度か忘れる」「錠剤が大きくて飲みにくい」と分かる場合があります。このような情報は、患者自身が問題だと認識していなければ、最初からデータとしてAIへ入力されない可能性があります。
さらに薬剤師は、患者の年齢、体調、生活状況、服薬状況、副作用の可能性などを確認しながら、必要に応じて医師への疑義照会などにつなげます。「何を確認する必要があるのか」を状況から判断する能力は、医療安全上とても重要です。
将来は「AI対薬剤師」ではなく「AIを使う薬剤師」へ
これから重要になるのは、AIと薬剤師のどちらが勝つかという比較ではありません。現実的には、AIや各種システムが薬剤師を支援し、最終的な専門的判断を人間が担う形が中心になると考えるのが自然です。
例えばAIが多数の情報から注意すべき候補を抽出し、薬剤師が患者との会話や医療情報を踏まえて、本当に問題があるのかを確認するという分担です。AIが得意な「速く広く調べる能力」と、人間が得意な「状況を理解して判断する能力」を組み合わせられます。
これは自動車の安全装置に少し似ています。センサーが危険を検知して運転者を支援できても、あらゆる道路状況を単純な警告だけで判断できるわけではありません。医療でも、AIによる支援と専門職による確認を組み合わせることで安全性を高めるという考え方が重要になります。
薬剤師の仕事はAIによってどう変わるのか
AIの普及によって、薬剤師の仕事のうち情報検索や文書作成など、一部の作業は効率化される可能性があります。しかし、それは直ちに薬剤師そのものが不要になることを意味しません。
むしろ定型業務を効率化できれば、患者への服薬説明、薬を飲めているかの確認、副作用の聞き取り、医師や看護師などとの連携といった、人間が関与する価値の大きい仕事へ時間を振り向けられる可能性があります。
将来の薬剤師には医薬品の専門知識だけでなく、AIが示した情報が信頼できるのかを検証する能力も求められるでしょう。AIの回答をそのまま採用するのではなく、根拠となる添付文書や公的な医薬品情報などを確認できる専門性が、かえって重要になる可能性があります。
まとめ:AIの正確さと薬剤師の判断力を組み合わせることが重要
AIは、大量のデータの検索・整理や一定条件でのチェックなどで非常に有力な支援手段です。一方で、情報が不足していたり患者ごとの事情を読み取る必要があったりする場面では、薬剤師をはじめとする医療専門職の判断が欠かせません。
したがって、「AIと薬剤師のどちらが正確か」という問いに一律の答えを出すより、仕事の種類によって得意分野が異なると考える方が適切です。AIにも人間にも、それぞれ異なる種類のエラーが起こり得ます。
これからの薬局・医療現場では、AIに薬剤師を置き換えることよりも、AIによるチェックや情報処理と薬剤師による専門的な確認を組み合わせることが重要になるでしょう。薬に関する個別の判断については、生成AIだけで自己判断せず、医師や薬剤師へ相談することが安全です。


コメント