オンプレミス環境からAWSへの移行は多くの企業で行われていますが、その際に「同等スペックのサーバを用意したのに動作が遅くなった」と感じるケースは少なくありません。この記事では、AWS環境への移行で発生しやすいパフォーマンス低下の要因とその対策を解説します。
オンプレとAWSのレイテンシーの違い
オンプレミスのサーバは社内LANに設置されているため、クライアントからの応答速度(PING値)は1ms前後と非常に低遅延です。一方、AWS EC2はインターネットやVPNを経由することが多く、PING応答は10ms程度になることがあります。
10msという数値自体は、Webアプリやバッチ処理などでは大きな問題になりませんが、クライアント・サーバ型のシステムで多数の小さなリクエストを繰り返す場合、この遅延が積み重なり「動作が重い」と感じやすくなります。
遅延が影響しやすい処理の特徴
以下のようなシステムは、レイテンシーの差が顕著に影響します。
- 1回の処理で多数のSQLクエリを逐次発行する
- 画面表示ごとにサーバとのやり取りが頻繁に発生する
- クライアント側でキャッシュを使わず毎回サーバに問い合わせる
例えば、社員管理システムで「社員一覧を表示」する際に数百件のデータを1件ずつ取得する設計であれば、1件ごとに10msの遅延が発生し、体感的に大幅な遅延となってしまいます。
パフォーマンス改善のための対策
クラウド環境での速度低下を緩和するためには、アプリケーションやネットワーク設計の工夫が必要です。
- データベースアクセスの最適化:逐次クエリではなく、一括取得やストアドプロシージャを活用する。
- キャッシュの導入:頻繁に使うデータはクライアントやミドルウェアでキャッシュする。
- リージョン選択:ユーザーに近いAWSリージョンにEC2を配置し、ネットワーク距離を短縮する。
- 通信方式の見直し:インターネットVPNよりもAWS Direct Connectなどの専用線接続を利用することで遅延を減らす。
オンプレとAWSの使い分けを考える
すべてのシステムをAWSに移すのではなく、応答速度が特に重要な業務システムはオンプレやエッジ環境に残し、他の業務システムはクラウドに移行するというハイブリッド構成も有効です。
特に、業務アプリケーションの設計が「低遅延前提」で作られている場合は、そのままクラウドに移すと性能劣化が起こりやすいため、移行時にアーキテクチャを見直すことが重要です。
まとめ
オンプレからAWS移行後の遅さは、スペック差ではなくネットワークレイテンシーの影響が大きいケースが多いです。PING 10ms自体は許容範囲ですが、アプリケーション設計次第では体感的に大きな遅延につながります。データアクセスの最適化やキャッシュ、リージョン選択、接続方式の改善を検討することで、クラウドでも快適な動作を実現できるでしょう。


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