データベースにおける多版同時実行制御(MVCC)は、トランザクションが開始された時点での一貫性のあるスナップショットを提供し、他のトランザクションの影響を受けずにデータを参照できるようにする仕組みです。これにより、整合性のあるデータを提供しながらも、ロックを使用せずに並行処理を最適化することが可能になります。
MVCCとは?
MVCC(Multi-Version Concurrency Control)は、データベースの同時実行制御の一種で、トランザクションが実行される際に、特定の時点のデータのスナップショットを各トランザクションに提供することで、競合を最小限に抑えます。
通常のロックベースの方式とは異なり、MVCCでは更新されたデータの新しいバージョンが作成され、古いデータも一定期間保持されるため、読み取りトランザクションが更新トランザクションをブロックすることがありません。
「遡ったある時点でのデータ」と「現在のデータ」の違い
MVCCでは、各トランザクションが開始された時点のデータを参照するため、「現在のデータ」とは異なることがあります。しかし、これは一貫性を保つための仕組みであり、以下のようなメリットがあります。
- 読み取りトランザクションが、他のトランザクションの影響を受けずに一貫性のあるデータを取得できる
- トランザクションがコミットされるまでは、新しいデータは他のトランザクションには見えない
- 更新が競合した場合は、適切な排他制御が働く
MVCCの仕組みと更新処理の流れ
例として、データ a=5
の状態で、2つのトランザクション TR1 と TR2 が実行される場合を考えます。
通常の処理(ロックベースの制御)
TR1: aを読み込み (a=5) TR2: aを読み込み (a=5) TR1: aを更新 (a ← a+5 → a=10) TR2: aを更新 (a ← a+10 → a=15) ← TR1の更新が消える(ロストアップデート)
ロックを使わない場合、TR1の更新がTR2に上書きされてしまう可能性があります。
MVCCによる処理
TR1: aのスナップショット(5)を取得 TR2: aのスナップショット(5)を取得 TR1: aを更新 (a ← 5+5 → a=10) → 新しいバージョンを作成 TR2: aの元の値(5)を参照して更新を試みる → 競合が発生し、エラーまたは再実行が求められる
MVCCでは、TR2が参照した時点の a=5
は、TR1が更新する前のスナップショットのため、TR1がコミットするとTR2の更新が無効になるか、再実行される仕組みになっています。
MVCCのメリットとデメリット
メリット
- ロックを必要とせず、並行実行が可能
- 読み取りトランザクションが他のトランザクションをブロックしない
- 一貫性のあるスナップショットを提供
デメリット
- 不要になった古いバージョンのデータが蓄積し、ストレージを圧迫する
- トランザクションの競合が発生した場合、リトライが必要になることがある
- システムによっては、管理が複雑になる
まとめ|MVCCはどのように整合性を確保するのか
MVCCは、各トランザクションに対して開始時点のスナップショットを提供することで、データの一貫性を維持しながら同時実行を可能にする仕組みです。競合が発生した場合には、更新を適切に管理し、データの損失を防ぎます。
- MVCCでは、トランザクションごとにスナップショットを提供し、並行実行時の競合を防ぐ
- 更新処理が競合した場合は、後続トランザクションがリトライやエラー処理を行う
- ストレージの管理が重要であり、適切なガベージコレクションが必要
MVCCの仕組みを理解し、適切に活用することで、高速な同時実行処理を実現しつつ、データの整合性を維持できます。
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